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『徹底比較!「新エネルギー」がよくわかる本』
(早稲田聡監修、編集プロダクションレッカ社編著、PHP文庫、2011.8.19)
●絶対に電気が欠かせない重度障害者
健常者は電気がなくてもなんとかなる。ろうそく1本あればいい。だが、重度身体障害者は電気なしには暮らせない。
車椅子が電気だ。車椅子からベッドに移乗する機械が電気だ。ベッドが電気で、褥瘡予防のエアマットも電気で動いている。
テレビやパソコンがなくても死にはしないが、これらのものがなくては生きていけない。
だから重度障害者は――特に人工呼吸器を使っているひとは――常に電気を気にかけている。
11.3.11が起きて、計画停電が実施されるというような異常事態になるそのはるか以前からわたしは停電対策を考えていた。
東京電力は「停電があったとしても4分以内に復旧する」といっていた。
テレビコマーシャルではさかんに「でんこちゃん」が「オール電化」を勧めていたが、
そんなことをして停電したらどうするのかと憤りをおぼえた。みんなもう停電を忘れているのだ。
こどものころ名古屋に住んでいて伊勢湾台風にみまわれたわたしは、数ヶ月におよぶ停電を経験している。
まず屋根にソーラーパネルを乗せた。なんの公的援助もないころのことだ。
売電ができるといっても、ざっと見て元をとるには40年ぐらいかかりそうだった。
さらにエコ・キュートというのも採用した。安い深夜電力を使って屋外のタンクにお湯を貯めるシステムだ
(月・水・金の午前中に訪問看護師に風呂に入れてもらうわたしは、そのとき電気もガスも止まったら風呂に入れない。
お湯さえあればひとまず安心だ)。
ソーラーシステムの良いところは、停電時にある程度の電気が使えることだ。
家の中に「停電時用コンセント」が一つ設置され、1500Wまで使える(パネルの枚数による)。
100Wの電球が15個使えるという意味だろう。ただし、停電したのがカンカン照りの昼間であればの話だ。
曇っていたり、まして夜であればなんの役にも立たない。それでも、設置していないより設置していたほうが、
少しは役に立つのではないかと思って大枚をはたいた。
ところで、みんな夜11時を過ぎたらどこの家庭でも工場でも電気代が安くなるとおもっているのではないだろうか。
それは誤解で、特別な電気メーターに交換して東電と新しい契約を結ばなくてはならない。
夜間は安くなるが、昼間の電気料金は高くなる。
ちなみに太陽光など再生可能エネルギーは、発電した電力をすべて1kWあたり42円で電力会社が買い取るという
「全量買取り制度」が始まるというので、わたしはホクホクしていたのだが、
ある日東電から「この制度はこれからソーラーを始めるひとだけで、すでに付けているひとは今までどおり」
という紙切れが1枚送られてきてガッカリした(腹立ちまぎれにすぐ捨ててしまったので、正確な文面が引用できなくて残念)。
しかしこの制度を先駆けておこなったドイツでは、買取り価格をどんどん下げているというから、そんなにうまい話ではなさそうだ。
「ソーラーでもうけませんか」という勧誘の電話がかかってきても、のらないほうがいい。
●原発は反対だが電気はほしい
むかし『東京に原発を!』(広瀬隆、集英社文庫、1986.8)という「それほど安全だというなら、
東京に建てたらどうなのだ!過疎の浜の人は死んでも仕方ないというのか」と主張する本を読んで衝撃を受け、
以来反原発の立場を取るようになった。実際に爆発してみると原発はもはや人類が手を付けられない代物であることがわかった。
いまや国民のほとんどが東京電力福島第一原子力発電所の事故など忘れ、放射能の脅威も汚染水の垂れ流しも忘れ、
「福島は完全にコントロールされている」という安倍首相のことばを信じ、アベノミクスというミニバブルに浮かれているかのようだ
(話はそれるがこれからは格差社会に向けてまっしぐらだぞ。最近の犯罪は、
ほとんどが非正規社員・派遣社員という同一賃金・同一労働の掛け声から外れたひとたちが起こしているようにみえる。
犯罪の多くは政治に起因する)。いまはまだ国難のまっただなかだ。危急存亡の時であることを強く自覚しなければならない。
事故後知ったことだが、使用済み核燃料を始末する知恵を持たぬまま人類は利便性だけを求めて見切り発車してしまった
というではないか。とんでもないはなしだ。世界中の原発を可能なかぎり早く廃止しなければならない。
テレビ朝日の「ニュースステーション」によれば、2013年8月にフィンランドを訪れ、
高レベル放射性廃棄物を地下400メートルに埋めて10万年かけて無毒化する核廃棄物最終処分場「オンカロ」
(洞窟の意)を視察した小泉純一郎元首相が、「フィンランドには原発が4基しかないが、日本には50基もある。
いますぐ止めないと最終処理が難しくなる」と即時原発ゼロを訴えたのは朗報だった。
(その直後2014年2月9日に東京都知事選があり、小泉氏が出るなら1票入れようと思ったのに、
息子が原発推進派の自民党の幹部ではどうにもならず、
むかし首相をちょっとやっただけでスキャンダル辞任をした陶器屋のオヤジをかつぎだしたものの惨敗、
政府は原発再稼働にはずみをつけた。)
オンカロは巨大な岩盤に掘られ、その厚みは60キロメートルにおよび、その下はもはやマントルであるという。
それほど強固なオンカロであるにもかかわらず、潜ってみると小泉氏は地下水が漏れ出ているのを見た。
その体験が、「オンカロは地下400メートルだが、日本では300メートルも掘ったら温泉が出てくる」
という発言に結び付いたのだろう。(ただしマントルも年に数センチ動いており、それがプレート移動の原因だというから、
どこに穴を掘ろうが確かなものなどないのだ。核ゴミはそれを無毒化する方法を編み出すしかないとわたしは考えている。)
ただわたしは、「原発ゼロ派」ではない。原発の実物が1〜2基必要ではないかと考える。
ただしあくまでも研究用。なぜなら事故を起こした原発を廃炉にするのに40年かかるようだ。
現在東京電力福島第一原子力発電所で働く現場作業員の日当は6000円と聞く。ピンハネにつぐピンハネ。
そのうち働き手がいなくなって40年では済まなくなるだろう。いまから科学者や技術者を養成しておかなければならない。
他国に輸出した原発の後始末もしなければ無責任というものだろう。
京大・東大・立教大・武蔵工業大・近畿大には研究用原子炉があるらしいが、発電用ではなく中性子の研究用で、
しかもすべて廃止の方向へ向かっているようだ。それはまずいのではないか。
●NISAは「新エネルギー」に向けよう
さてそこで必要になるのが原発に変わるエネルギー源だ。
本書は3.11直後の、国民のあいだに反原発意識が蔓延していた8月の出版物。
データは6月時点のものだというから、もうこれ以上急ぎようがないほど急いだことがわかる。
著者の早稲田は三菱総研環境・エネルギー研究本部主席研究員で、とてもそのころ執筆している時間などなかったにちがいない。
出版界の常識として「監修」といったら執筆はしていないという意味だ。
各編フォーマットが同じだから、フォーマットづくりに参加し、ゲラに目を通したといったところだろうか。
「新エネルギー」という呼び名は日本独特のもので、国際的には「再生可能エネルギー」と呼ぶ。
後者に統一してしまえばスッキリするが、それではシェールガスやメタンハイドレートのように、
掘り尽くしたらおしまいというものまで入れられない。
もともと再生可能エネルギーはCO2をなんとか減らさなければという気運のなかで検討されてきたもののようだ。
「新エネルギー」は、とにかく原発に変わるエネルギーを開発しなければという思いが産んだことばだろう。
《新エネルギーが環境に優しいことはわかるが、その一方でコストが高いのではないか、安定的に電力を提供できるのか、
つまり「発電システムとしてモノになるのか」という疑問を持つ方は多いだろう。
本書では、新エネルギーのひとつひとつについて、発電効率、安定性、コストなどの観点からその実力を徹底検証し、
将来的な普及の可能性についても展望している。》
取り上げられるのは、これまでの原子力発電・火力発電・水力発電以外の新エネルギー16種だ。
それらに関し、発電効率・安定性・建設費用・発電コスト・環境負荷・人体への影響・メリット・デメリット・技術レベル・実現性の
10項目について検証している。
日本の技術力は世界有数のものであり、いまやヒトとカネを投入すれば不可能なことはほとんどない。
政府が原子力でいくと決めたから日本は世界第3位の原発保有国となった。今後自民公明政権は原発再稼働を推進し、
新エネルギーを重要視することはないだろう。ではどうするか。
国民が新エネルギーに重点を置く企業を応援するしかないとわたしはおもう。
時あたかも政府はNISA(少額投資非課税制度)なるものを大宣伝して国民の意識を投資にむけさせようとしている。
過去にも「貯蓄から投資へ」と大キャンペーンを張ったが、折悪しくというか資本主義の運命というか、
リーマンショックが起きてキャンペーンは頓挫した。わたしはあえてここであなたのNISA用資金を新エネルギーの会社に
向けることを推奨したい。儲かりはしないだろう。たとえば100万円投資しても配当は良くて1%、
1万円だ(よく知らないけど……)。その税金2割、2000円を免除してくれるという制度だ。
儲かるというほどのものではなかろう。それなのにTV-CMで剛力彩芽ちゃんに
「1万円でわたしも投資家になれるんですか? やったー!」キャピキャピといわせて、貧乏な若者まで煽っている。
もともと儲かりもしない上に損をする可能性だって大きい。それでも「投資ではなく応援だ」という気持ちで金を出せば、
落胆は小さくなるのではないか。それに、国民の多くがNISAで新エネルギーに投資したという統計が明らかになれば、
政府も無視できないはずだ。以下にあげる新エネルギーのなかで有望だと感じたものにぜひ投資してほしい。
なお、本書の情報以外、主にテレビから得た知識を挿入した。
ざっと見わたしたところ、どれも原発のように1基で大量の電気を生産できるものはない。
すべて地産地消規模のものだ。だがそのほうが天変地異が起こったとき、被害は限局的なものにとどまり、
原発のように地球全体に迷惑をかけ、他国や動植物に頭を下げつづけながら日本という国が滅んでいく
という事態は避けられるだろう。(つづく)
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