『徹底比較!「新エネルギー」がよくわかる本』
(早稲田聡監修、編集プロダクションレッカ社編著、PHP文庫、2011.8.19)
(3月号からのつづき)
本書で取り上げられた新エネルギー16種について原料別に編み直すと、
「燃料電池」がどの分類にも入らないので冒頭に掲げておく。
〇燃料電池
かんたんにいうと、「エネファーム」のことだ。都市ガスなどから水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電する。
初めて話題になったのはたしか愛知万博(2005年)のときで、名古屋まで見学に行ったが、雨にたたられ、
冷凍マンモスを見ただけで帰ってきてしまった。その後わが家に東京ガスが売り込みにきたが、300万円と高く、
何より起動時に電気が必要だというのでことわった。わたしはあくまでも停電対策を考えているのだ。
東京ガスは東電の「でんこちゃん」が姿を消したのに乗じていま大宣伝している。
オール電化に押しまくられた恨みを晴らしているかのようだ。
結論から先にいえば、もっとも有望なのは地熱発電だ。
●太陽・風
〇太陽光発電
発電効率はまずまずだが安定性に課題がある。日本はあまり日光に恵まれたほうではないからだ。
〇太陽熱発電
太陽熱を集光システムであつめ、水を熱して蒸気でタービンを回す。
タワーのまわりに鏡をならべて光をタワーのてっぺんに集めるという近未来的な装置をテレビで見たことがあるが、
これがそれだったのだ。巨大湯沸かし器だ。太陽光発電と同じ理由で日本には向かないと本書はすげない。
〇宇宙太陽光発電
宇宙と付くと、それだけで最先端、かっこいいという気になる。
要するに宇宙空間にソーラーパネルを浮かべれば、悪天候も夜も関係なく発電できるということだ。
だがまだまだ構想段階で、その衛星に必要な部品を打ち上げるだけで625兆円かかると聞くと、実現性は乏しいように思える。
それより「デザーテック」と呼ばれる砂漠の太陽光と風力を利用して発電しようという構想のほうが実現性が高い。
中東の産油国はほぼ砂漠国ともいえる。ここなら集光式の太陽熱発電も効率が良く、電気をヨーロッパに輸出する計画を進行中だ。
〇風力発電
「太陽光発電とともに新エネルギーのエース」だそうだが、やはり風まかせ、風が弱くても強すぎてもダメ。
立地条件も難しい。電波障害、低周波による騒音、バードストライクなどを避けるため洋上発電が有力。雷対策も必要。
●水
〇波力発電
海上に発電機を浮かべ、波の上下を利用して発電。比較的小型なので景観を損ねることがない。
建設費が高い。イギリスで発達。
TBSテレビ「夢の扉」で三井造船中野訓雄氏が紹介されていた。
日本沖合の波のエネルギーの3%を活用できれば、原発30基分になるという試算もあるそうだ。
原発1基の発電量は約90万kWだからとてつもない量だ。実験場の伊豆諸島神津島の漁師は「装置が漁のじゃまになるが、
子孫のことを考えたら賛成だ」と心意気をみせる。むかしから多くの科学者が挑戦してきた波力発電だが、商用化されたものはない。
なぜなら波の力を電力に変えるエネルギー変換効率が17%と悪かった。中野はそれを59%にまで上げた。
著者の早稲田はこれまでの発電効率を考えてものをいっているわけだが、先ほどもいったように日本は基礎的な技術力が高いから、
ある分野にカネとヒトを投入すればいくらでものびていくのだ。なお三井造船はメタンハイドレートにも注力している。
〇海洋温度差発電
表層水(30度前後)と深層水(4度前後)の温度差を利用する。この分野における日本の技術レベルは世界トップクラスだという。
佐賀大学の池上康之教授が中心に研究を進めている。日本経済新聞によれば、
「海洋エネルギーの有望株で、原発8基分の電力をまかなえると期待される。
久米島では2年間の試験を経て、出力1000キロワットの商用プラントの建設を目指す。
米国やフランス、中国でも計画が進んでおり、世界での開発競争が激しくなってきた。」
実証プラントは沖縄県から委託されたIHIプラント建設や横河電機などがおこなっているとのこと。
〇海流・潮流発電
海流とは黒潮・親潮のように、大洋でおこる水平方向の流れ。
潮流は潮の干満によってひきおこされる流れのことで、海流ほどの運動エネルギーはないが、
海峡では強い運動エネルギーが発生する。風力発電が風でタービンを回すように水流の力でタービンを回す。
ともに発電効率は高い。これもまた建設費が高いという欠点を持つ。イギリスで発達。
――そんなにイギリスで発達しているなら、同じ島国で海流・潮流にめぐまれているのだから、
日本も教わりにいけばいいのではないか。交流がないのか、功名心の争いか。
〇潮汐力発電
潮流発電が海水が流れる運動エネルギーを利用するのに対し、潮汐力発電は、
満ち潮・引き潮のもたらす海面の上昇・下降を利用する。干満差の少ない日本には向かないようだ。
〇マイクロ水力発電
家の前のきれいな水路に里芋を入れたかごを回転するようにしかけておくと、ほっといても皮がむける。
あれをテレビで見るたびに、日本人は頭がいいうえにたのしい民族だなあと思う。
あれほどちいさくはないが、マイクロ水力発電は100kW以下の発電。ダムを必要としないのもうれしい。
そのかわり落ち葉やゴミの掃除は頻繁にしなければならない。地産地消で細々とやるのもいいではないか。
小川に水車があればなおいい。TPPで日本の農業はダメになるという。
食糧自給率が下がるのは危険なことだが、わたしは田畑が荒れて農村風景が変わってしまうことのほうが
日本人に与える精神的影響が大きいとおもう。われわれの魂の奥底にはまだ豊葦原水穂国のイメージが残っているのではないか。
●ゴミ
〇バイオマス発電
バイオマスとは、《生物資源(バイオ)にまとまった量を表す「マス」を合成してつくられた言葉》。
家畜の糞尿、間伐材を利用する農林水産系、生ゴミなどの廃棄物系、サトウキビやトウモロコシなどの栽培作物系などにわけられる。
なににつけむかしは邪魔なゴミとして迷惑がられていたものが、いまやりっぱな有用物になったという話を聞くとワクワクしてくる。
ただ、バイオエタノールをつくるのに、本来食料であるトウモロコシ・サトウキビがひとの口に入らず、
開発途上国のひとびとを苦しめているという現実がある。あくまでも廃物利用でやってもらいたい。
〇廃棄物発電
バイオマス発電の一種、熱源をゴミにしぼったもの。
《一般家庭や産業界より排出される廃棄物のうち、再利用されることなく焼却処分される量は膨大であり、
家庭から排出される可燃ごみは七割近くが焼却処分されている。》この熱を使って発電機のタービンを回すのだ。
使用済みの天ぷら油をあつめてつくる「バイオディーゼル油」の話はたのしい。
うどん県香川では、うどんの廃棄量が多く、いままで捨てていたものを発電に回そうとしている。
〇熱電発電
物体の温度差を利用する発電方法だというが、よくわからない。だが《熱電発電は温度差があればどこでも発電を行える。
(中略)特に常に一定量排出される工場廃熱を利用すれば、太陽光発電よりも安価な再生エネルギーとなる。》というではないか。
原料はただだ。もうすぐにでも各工場はとりかかかってほしい。
これを実行すれば日本はおろか世界中が助かるのに、なぜやらないんだろうと思われることがよくある。
このあいだ所ジョージのテレビ番組で水を酸素と水素に分解してガスをつくる日本テクノという会社を知った。
国際特許も取っているが、従業員数十人で上場もしていない。どうして政府はこれを大規模に成長させようとしないのだろうか。
じつに歯がゆい。
〇震動発電
冒頭から「実験段階にとどまり、実用化の道は遠い」という見出しが付いていては意気阻喪する。
しかし鉄道の改札口や高速道路の下に敷き詰めれば、ひとや車の振動で照明ぐらいは点くようだ。
サッカーの試合中、観客席24席に発電床を敷きサポーターが応援歌に合わせながら跳びはねつづけたところ、
一試合で単三乾電池3本分の発電に成功したという。これだけ聞くとミミッチイようだが、
サッカースタジアムの客席数は約5万だ、スタジアム全部に敷き詰めればほぼ単三5万本分、
7万5000ボルトになるのではないか。
これがどの程度の数字なのかわたしにはわからないのだが。
わたしは「地震発電」なるものを夢想している。日本は世界1の地震国だ。北から南まで地震のない都道府県はない。
国土そのものが火山でできているのだし、活断層は列島に網の目のように張りめぐらされている。
地震のエネルギーは地獄のように強大で、若者が跳びはねるのとはわけがちがう。これをなんとか発電に利用できないものだろうか。
●地熱
〇地熱発電
地熱発電は「地下エネルギー大国日本の隠れた本命」であり、日本は地熱発電大国になれるという。
日本の地下エネルギーはインドネシア、アメリカに次ぐ世界第3位の資源量で、原発20基ぶんに相当するのだそうだ。
地下数キロのところには「地熱地帯」という1000度前後のマグマ溜まりがあり、
そこへしみ込んだ雨水などが加熱されて「地熱貯留層」を形成する。そこへ坑井(コウセイ)をさしこんで水蒸気を吹き出させる。
地表近くに熱水資源がなくても、地下3000メートルまで掘れば300〜400度の岩盤がある。
そこに水を注入すれば熱水ができる。これを高温岩体型発電という。
《世界最大出力を誇るニュージーランドの「ナ・アワ・プルア地熱発電所」(一四万kW)は、じつは日本製である。
(中略)技術力は世界トップクラスなため、国内の地熱開発にもその技術力を存分に活用できるような環境整備を期待したい。》
つくった会社の名は富士電機だ。
欠点は、地下深部のボーリング調査に費用と期間を要すること。
《熱源となる井戸は使い込んでいると蒸気を発しなくなる可能性があり、そうなるとまた井戸を掘削する必要がある。
この費用は一本につき五〜七億円ともいわれ、長く利用可能な熱源を見つけることも重要だ。》
そのほか地熱発電に適した場所の多くが国立公園内にあるとか(2012年には規制緩和がはじまった)、
温泉の枯渇を心配する自治体や業者の反対もあるが、どちらも日本のエネルギー事情に危機感の足りないのんきな意見のようにおもえる。
発想を逆転させてみてはどうか。アイスランドの地熱発電の温排水でつくった、
まるで湖のような温泉は、世界中から観光客を集めている。かしこい日本人のことだから、
いざとなればきっとおもしろいアイデアを生み出すにちがいない。
〇温泉発電
泉源からわき出た温泉水は浴用としては熱すぎるので冷やして使っている。つまり熱を捨てている。
80〜100度程度の低温熱水でも発電を可能とする「バイナリー式」という方法を使う。
すでにあるエネルギーを活用するため、地熱発電のような開発リスクが少ない。設備も小型で経済的。
ただし地熱発電同様、温泉業者が反対する。そりゃあねえ温泉につかったあと酒飲んでアアコリャコリャとやるのは
わたしも嫌いではないが、もうすこし孫子の代のことまで考えたらどうだ。危急存亡の時なのだよ。
●資源小国ではない
わたしはこのほかにメタンハイドレートやユーグレナのような新たな燃料について、
また各種の省エネシステム、画期的蓄電池についても検討していかなければならないと考えている。
石油や石炭のような「1次エネルギー」の自給率は4%。ゆえに日本は資源小国といわれる。
くやしい。クッソー、そんなことあるものか。資源確保のために諸外国に頭を下げまくっているこの現状をなんとかしたい。
江戸時代から創意工夫の進んだ日本にできないはずはない。原発予算を他にふりむければ何だって可能だ。
窮すれば通ず。現代はどこにカネとヒトを注ぐか、それしだいだ。
たとえばオーランチオキトリウム。ネット情報によれば「微細藻類の中には、光合成の副産物として脂質を生産するものがあり、
石油代替エネルギー源として1980年代から研究が始められた。
(中略)筑波大学の渡邉信教授らが研究を進めてきた。しかし、2009年に沖縄の海で、さらに高い効率で増殖し、
石油に代わる炭化水素を効率良く生産する藻類が同教授らによって発見された。
これがオーランチオキトリウムである。今日の日本の輸入原油量をオーランチオキトリウムで賄うとすると、
最小でわずか約2万ヘクタールしか必要でない。
また光を必要としないので一般的な微生物発酵用のタンクなど既存のインフラを利用できるメリットがある。」
ミドリムシ(ユーグレナ)は、沖縄のような暖かい地方でしか大量培養できない。
だが光を必要としないオーランチオキトリウムなら福島のような被災地でも培養できるのではないか。
●最も安定しているのは地熱発電
早稲田は、太陽光や風力をあまり高く買っていない。薄く広く散らばっているエネルギーだからだ。
《たとえば100万kWを発電しようとした場合、太陽光発電ならほぼ山手線の内側と同じだけの面積が必要となり、
風力発電ではその三倍近い面積が必要になるという。/この点から考えると、
地熱や海洋エネルギーはある程度まとまって存在しており、
そこそこの大きさの施設でそれなりに大きな電力を発電できる有望な発電方法といえる。
日本の地熱発電、温泉発電に使える地熱エネルギーは二三四七万kW分あると推計されており、
現在のところもっとも有望な新エネルギーといってよいだろう。
/また、海洋エネルギーも、経済水域内における熱エネルギーの総量が約一〇〇兆kWhに達するといわれ、
海洋温度差発電でわずか一%を利用するだけで、日本の電力需要を上回る電力が生み出せるという。》
結論。《実用レベルに達している新エネルギーのなかで「安定した発電」という点で優れているのは、
地熱発電、温泉発電、バイオマス発電、廃棄物発電、燃料電池の五つだ。現在の技術レベルや運用面も考慮すると、
地熱発電が最も安定している新エネルギーといえるだろう。》ここはひとつ早稲田の意見を信じて、
みんなで地熱発電に力を注ぐべきだろう。