114(2018.8掲載)
『おもしろい!進化のふしぎ―ざんねんないきもの事典』
(今泉忠明監修、高橋書店、2016.5)
本屋の店頭で本の中身をパラパラながめて、自分と肌が合うかどうか下見をしたうえで買うのがいちばんなのだが、それができないわたしは、
ほぼ広告のタイトルだけで決める。おもしろいタイトルだ。届いた本を開いてみたら絵の多い総ルビの児童書だった。
だが内容は、児童書と見せかけてほんとうはおとなの読者を想定しているのではないかとおもわせる。おとなも知らないことばかりだからだ。
監修者は1944年生。どうも聞いたような名前だなあとおもってWikipediaを見たら、父は動物学者の今泉吉典、兄も息子も動物学者。
ざんねんないきものといっても、そういう生きものがいるわけではなく、ひとからみた不思議あるいは滑稽な点のこと。
編集者はおそらく今泉の文をイラストレーターに持ち込んで自由なイラストを描かせたのだろう。ベストセラーの手柄の半分はイラストにある。
●「うんこ本」大流行の2017年
小学生の特に男子はうんこが大好き。なにしろ2017年には『うんこ漢字ドリル』(文響社、著者名なし)という学習教材がベストセラーになっている。
本書にもうんこをネタにした動物が多く登場する。まずそれらをまとめてみよう。
ξデンキウナギ
《体の80%は発電のための器官で、自分がしびれないように、表面はぶあつい脂肪でおおわれています。》
生きるのに必要な胃や腸はすべて体の前のほうにまとまっている。《おしりのあなも前にあるため、うんこをする姿は、
まるであごの下からひげを生やしているようにも見えます。》口と肛門が近接しているのは合理的といえなくもない。
ξクラゲ
……とおもっていたら、出てきた出てきた。《クラゲは触手でえものをさして弱らせてから、ゆっくりと口に運びます。
口に入れたえものは、体内で消化吸収され、食べかすはふたたび口から外に出します。》究極の職住接近というか、食出同一なのだ。
わたしはクラゲが大好き。とりつかれたのは江ノ島の水族館。どんな魚を見てもみんな脊椎動物だから似たり寄ったり。
ところがクラゲの部屋に入ったら全体的な照明を暗くし、クラゲの水槽に光を当てて、幻想的な世界をかもしだしているので一度で魅了されてしまった。
一度クラゲ専門水族館の鶴岡市立 加茂水族館(〒997-1206 山形県鶴岡市今泉大久保657-1 TEL 0235-33-3036)にいってみたいものだ。
ξカンガルー
カンガルーの赤ちゃんは、生まれるとすぐ母親の袋に移動し、中にある乳首をくわえる。
《すると、乳首の先がぷくっとふくらみ、口からはずれなくなります。》成長して口が大きくなるまで離れられない。
《袋から出ることも身動きもできないので、うんこもおしっこもたれ流しですが、なんと母親が顔をつっこんで食べてしまいます。》
この「なんと」はよけいではないか。ほかの動物でも見られる行為なのだから。
ξウサギ
《ウサギは、自分のうんこを食べます。それもおしりに口をつけて直にいくのですから、なかなかのものです。》
植物だけを食べる動物の胃腸には、植物を分解するバクテリアが住んでいる。うんこといっしょに出てきたバクテリアは、いいタンパク源になるのだという。
ξスカンク
スカンクといえばクサイおなら、これは子どもでも知っている。ほんとうはおならではなく、おしりにある臭腺から発射される液体なのだそうだ。
スカンク自身はこのにおいが好きで、《オスとメスは、おしりのにおいをかぎあってから交尾します。
子どもの「おなら」がくさいほど武器として役立つため、よりくさい相手を選んでいるのでしょう。》何かの比喩に使えそうな話だがおもいつかない。
ξアリジゴク
懐かしのアリジゴク。子どものころ、軒下の砂地にいた。すり鉢状の巣の中に糸でくくったアリを落とすと、
下からパッパッと砂をかけて穴底に引っぱりこもうとする。釣り上げると、あごの大きな毛むくじゃらの虫が出てきた。
獲物が落ちてくることなどめったにないことなので、食べたものを無駄にしたくないため、うんこをしない。
《かれらは成虫になると、たまっていたうんこを出しきり、身軽になってから空へと飛び立つのです。》
夏の夜、茶の間の裸電球にパタパタと寄ってくる成虫ウスバカゲロウのはかなげな姿とは似ても似つかない。
ξゴリラ
ゴリラは知能が高くとても繊細な動物。争ってケガをする危険を考えると、多少の怒りは我慢してしまう。それがストレスになり、急に下痢をしたりする。
《そしてなぜか下痢便を食べます。ふつうはうんこを食べないため、これはストレスによるもののようです。》
ひょっとしたら下痢便の中に精神安定剤の成分が入っているのかもしれない。と、これは私見。
ξクロオオアリ
アブラムシは野菜や果物の葉や茎にびっしりとくっつき、汁を吸う。アブラムシはアリマキともいう。
《汁のすいすぎで体にたくわえられなかった糖分は、おしっことして体外に捨てています。》このおしっこは、甘露と呼ばれるそうだ
(歌舞伎などの古典芝居では、道中のどがかわいたときお茶などにありつくと「甘露、甘露」などと褒めますな)。
そこへクロオオアリがやってきてアブラムシのおしりに口をつけてあまい甘露をごくごく飲む。そのお礼にクロオオアリはアブラムシの敵を追い払い、
これを共生というと小学校で習った。ただ「お礼に」敵を追い払うのかどうかどうしてわかるのか。商売敵と見なしているだけかも知れない。
ξバク
《バクは「うんこをするなら水の中」と決めています。これはトラなどの敵にうんこが見つかり、ねらわれるのを防ぐためともいわれます。》
いわれますだから、正確なことはわかってないわけだ。敵のいない動物園でも水場がないとうまくうんこができず、便秘のバクのおしりにホースで水をかけたら、
たまっていたうんこを一気に出したそうだ。暗中模索していた飼育員の達成感といったらなかっただろう。
ξカクレウオ
《カクレウオの体には出っぱりがなく、頭から尾にむかって細くなっています。》昼はナマコの体内で過ごし、
夜になると出て食事に出かけ、食事がすむとまたナマコの体にもぐりこむ。どうやって入るかといえば、ナマコの肛門に尾からモゾモゾともぐりこむのだ。
ナマコはさぞ気色悪かろう。ただ、古川柳に「あわびとりナマコのもぐる心地よさ」というのがあるから、気色悪くはないかもしれない。解説はあえて省く。
●楽しい習性(哺乳類・鳥など大きい動物)
冒頭でも述べたように、児童書を装ってはいるが、おとなも知らないことばかり。さあドンドンいこう。
▽カバ
カバというと「虫歯の日」に動物園で歯を磨いてもらうおとなしい動物だと思われているが(そんなことしないか今は)、
ゾウやサイにもけんかを売る獰猛な動物で、アフリカでは毎年3000人近くがカバに殺されているそうだ。
だがそんなカバも肌はひどく弱く、太陽の光を浴びただけでひび割れて火傷のような状態になるそうだ。日光じんましんのわたしは同情を禁じ得ない。
▽キツツキ
キツツキが木をつつくとき、頭にかかる力は、重力の1000倍もあるそうだ。
《これは人間であれば、頭にトラックがぶつかったときと同じくらいの衝撃だそうです。》この「重力」ということばの意味がよくわからないが、
わかったふりをして先へ進むと、こんなことが書いてある。《脳が小さいことから致命的なダメージは受けないようですが、
そもそも脳が小さくなければそんなばかげたまねはしない気もします。》非科学的なコメント(笑)。
▽ニホンザル
ニホンザルの赤い尻は、月経なのだと勘違いしていた。《かれらにとって赤い肌は、血流が良く元気な証拠。
つまり「生命力が強いサル」とみなされ、異性にモテるというわけです。》ボスざるの顔や尻はとりわけ赤いということになる。
▽ワニ
イリエワニのかみつき能力はものすごく、《口全体で小型のトラックくらいの重さをかけられる》。
このところ文意曖昧。かみつく力が強いという意味か。ところが口を開ける力は弱く30sほど。おじいちゃんがヘッドロックしたら、もう開けられない。
武井壮かイモトの企画にどうぞ。
▽カカポ
ニュージーランドにはカカポという鳥がいる。100万年ものあいだ天敵がいなかったので、ぶくぶく太り飛べなくなってしまった。
人間がネコなどの動物を島にもちこんだため、今や絶滅寸前。苦労や苦しみがあってこその人生だと『夜と霧』のフランクルもいっている。
ちょっと話が飛びすぎたかな。
▽ゾウ
いま歯医者にかかっている。歯医者にかかるといえばたいてい奥歯ではなかろうか。ゾウの歯は上下に12本ずつ、合計24本あるのだが、
とても大きく上下2本ずつしか生える余裕がない。すり減ると、奥からつぎの歯が移動してくる。うらやましい。
だが硬い植物を1日に200sも食べるので、60年ほどで24本すべてすり減り、最後は何も食べられなくなって餓死するのだそうだ。
義歯を作ってやればもう少し長生きするのでは?
▽クロマグロ
同じ大きさの魚と比べ3倍近い速度で泳ぐクロマグロは、泳ぐのをやめると酸欠で死んでしまう。
《多くの魚はえらぶたを閉じ開きして、えらに水を送り、水の中の酸素を体に取り込みます。》ところが高速で泳ぐ彼らは、酸素の消費が激しいため、
えらぶたを動かすくらいでは呼吸が追いつかない。そのかわりに口を開けたまま泳ぎ、口からえらに水を送って酸素を取り入れている。
「あいつらいつもお口ポカンで泳いでいやがる」と他の魚から馬鹿にされている。
▽サバクツノトカゲ
サバクツノトカゲは、タカやコヨーテなどにしょっちゅう襲われる。「もうダメだ」とさとった瞬間、
《目からビームのように血液を飛ばします。その量は、なんと体内の血液の4分の1。》うまく相手の目に当たれば、驚いて逃げていくが、
サバクツノトカゲも出血多量で死んでしまう。どっちにしても死んでしまう。やけくそとしかおもえない。
▽ハダカデバネズミ
ハダカデバネズミは地中で100匹ほどの群れで暮している。子どもを生むのは女王だけ。《女王は巣の中をパトロールして、
メスたちにたびたびおしっこをかけます。するとメスたちは、子どもをつくる気をなくしてしまうようなのです。》これを恫喝小便という、かどうかは知らない。
●楽しい習性(昆虫類など小さな動物)
▽ホタル
日本には50種ほどいるホタルだが、《ほとんどのホタルは幼虫のときだけ光り、おとなになると光らなくなります。》
光らないのは昼間のあいだに交尾の相手を見つけているから。どうにかしてホタルを見たいとおもったわたしはある年、
椿山荘の「ほたるの夕べ ディナーブッフェ」に行ったが、観光客で立錐の余地もない通路から眺める水辺にかろうじて発見したホタルは、
わずか1〜2匹だった。数百人対数匹。あえていう。詐欺に等しい。
▽クワガタ
クワガタといえばなんといってもオスのりっぱな大あごが珍重されるが、役に立つのは喧嘩のときだけで、樹液は吸いにくいわ、
空は飛びにくいわ、はては大あごどうしで争っているあいだに小あごのオスがちゃっかりメスと交尾してしまうこともあるとか。
背の高いイケメンだけがいい思いをするわけではないと、友だちを慰めてあげなさい。「秀吉を見ろ」と。
▽クリオネ
なんの宣伝だったか、むかしTVCMで初めてクリオネが流氷のしたで優雅に泳ぐ姿を見たときは、まさに「流氷の天使」だとうっとりした。
だが数年後クリオネの補食行動をやはりテレビで見たときはたまげた。天使の頭がヒトデのようにグワッと裂け、一瞬でエサをくわえたんだもの。
この触手を「バッカルコーン」というそうだ。オノマトペではないか。
▽スズメバチ
女性は蜂のような腰のくびれにあこがれる。英語で蜂の腰をhourglass figure(砂時計のような形)という。
スズメバチはほかの昆虫をしとめると肉団子にして幼虫に与え、自分は幼虫が口から出すどろどろの液体を食べる。
直接えものを食えばいいのに、こんなに腰が細いと固形物が通らないらしい。マヌケな話のようだが、腰があんなに細くなったのは、
《毒針のついたおしりを自由自在に動かすため》だとか。スタイルのいい美人が近づいてきたらそれはハニートラップだとおもわなければいけない。
▽モンシロチョウ
キャベツの葉を食べるのはモンシロチョウの幼虫だけ。キャベツは用心深い。葉に昆虫がまずいと感じる成分を含み、
おまけに《葉を食べられると特別なにおいを出し、モンシロチョウの幼虫に卵をうみつける、寄生バチをよびよせるのです。》
『植物は〈知性〉を持っている』(NHK出版)をおもいだす。
▽タガメ
タガメのオスは交尾のあと、メスが産んだ卵を守る。そこへまだ産卵してないメスがやってきて卵をこわそうとする。
《オスも最初は抵抗しますが、タガメはメスのほうが大きいため、あっさりやられてしまいます。すると卵をこわされたオスは、
何事もなかったかのように子どものかたきのメスと交尾をして、生まれた卵をふたたび守るのです。》ほかの種でもよくあること。
オスメス共にそれほど自分の遺伝子を残したいもののようだ。人間界の“不倫”も同列。
▽ハチドリ
40年ほどまえ上野動物園で見たハチドリがまた見たくなり、電話で問い合わせたがもういないという。でも長崎のなんとかいう動物園にはいると教えてくれた。
たいした情報網だ。それはともかく、《ハチドリは空中で静止するために、1秒間に60回以上の超高速で羽を動かしています。
当然、ものすごくエネルギーを使うため、高カロリーで消化しやすい花の蜜を一日中なめ続けないと死んでしまうのです。》
ほんとかね。交尾や育児のあいだはどうするのだろう。
▽ノミ
ノミは自分の体長の100倍の高さまでジャンプできる。《驚異のジャンプ力を生み出すのが、異常に長く発達した後ろ足。
しかし後ろ足だけが細長すぎてバランスが悪く、着地どころか立つこともできません。》いつも動物の毛に囲まれているから立つ必要なんかないのだ。
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