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 『おもしろい!進化のふしぎ 続ざんねんないきもの事典』
 
(今泉忠明監修、高橋書店、2017.6)

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 前の本を出してから2ヶ月後に続編を出しているから、爆発的な売れ行きだったとみえる。 奥付にわざわざ《「ざんねんないきもの」は、株式会社高橋書店の登録商標です。》としるしてある。

 第1章は「“たまたま生き残る”のが進化」という大見出しで始まる。進化とは《「こうなりたい!」と思って起きるわけではなく、 自然のなかでけんめいに生きていたら「たまたまそうなった」だけなんです。》ということばで始まる。 よくある俗説として、「馬の足が長くなった理由」は、樹上高く実った果実を食べんがために一所懸命足を伸ばしているうちに 長くなったというものがあるがそれはまちがいで、もともと足の短かった馬が、気候変動で森が小さくなって住めなくなり草原に出たら、 猛獣に殺されてしまった。だがたまたま足の長い子が生まれると速く走れるものだから敵に捕まりにくくなり、その特徴が子孫に受け継がれていった。 ここに肝腎な結論が示される。《どう進化するかは、そのときの環境(自然)によって決まる。これを「自然選択による進化」という。》

 「進化」という日本語は、優れたものが生き残るという誤解をあたえがちなので、あえてそれを否定したのだ。 たまたまなのよ、たまたま。「変化」というべきだとわたしは考えている。

●そろそろ品切れうんこネタ

 第1巻ではあれほどあったうんこネタも、2巻には少ない。3巻もあるそうだが、そこではどうなっているのだろう。

ξタテハチョウ  タテハチョウの仲間は、動物の死体から出る汁やうんこが大好き。《ストローのような口で、かたいうんこをすうコツは「すいもどし」という技にあります。 自分のつばやおしっこをかけて、うんこをドロドロにとかすのです。》頭をかかえたくなるような技だが、土建業界のひとにとっては当たり前の話かもしれない。

ξフンバエ  フンバエの成虫は、うんこに集まってくる虫を食べる。そこで生まれた幼虫はうんこを食べて育つ(うんこというものは一般的に栄養豊富なものだ)。 メスはより新鮮なうんこに卵を生む。そこにはたくさんのオスが待ちかまえ、メスが来ると先を争うようにメスにのしかかる。 新鮮なうんこだからメスの体は重みでズブズブと沈んでいき、そのままおぼれ死んでしまうこともあるらしい。オス、頭悪い。 メスを殺したら自分の遺伝子も残せないではないか。

 それにつけてもおもいだすのがズワイガニのメス。むかし金沢の近江町市場で見たことだが、オスは1尾2〜3万円するのにメスは数百円だった。 身は食うとこなんかありゃしない。味噌汁にして卵を食べるのだ。メスは平均10万個を抱卵する。これを捕らずにおけば相当な資源保護になるだろうに。

      かに味噌って何だろう うんこだとおもうんだけど

ξコアジサシ  俊敏でスマートなコアジサシが群れ飛び、矢のように海中に飛び込む光景はすがすがしい。 《コアジサシは、大勢が近くにより集まって卵をうみます。みんなで協力して巣を見張ることで、カラスなどの敵をすぐに発見し、 追いはらいやすくするのです。》とはいえ、体の小さな彼らが敵を追い払うには、「ギリッ、ギリッ」とさけびながらいっせいにうんこの雨を降らせるしかない。 このうんこ爆弾の効果は抜群だという。こんなことが書いてある媒体は本書だけだ。ヤフーにもWikipediaにも野鳥の会にも書いてなかった。えらい!

●オトコとオンナのお話

△シジュウカラ  シジュウカラのオス・メスを見分けるのは容易で、胸のネクタイが太いのがオス。オスどうしでは太さの差はそれほどない。 《しかし、海外の研究では、もようが細いオスをつかまえて、黒いインクで太くぬってもどしたところ、メスにモテモテになったという、 おもしろい結果も報告されています。》おもしろくない。メスにはひとを見る目がない。あ、ひとの話じゃなかったね。外見がいかに大切かということ。

△クマノミ  ディズニー映画「ファインディング・ニモ」の主人公はクマノミという、イソギンチャクをすみかとする魚。 ひと株のイソギンチャクに一群れが暮らしているのだが、メスは1匹しかいない。《むれのなかでいちばん大きなオスがメスに変わり、 残ったオスのなかでいちばん大きなオスと夫婦になって卵をうむのです。(中略)卵をうんでいいのはいちばん大きなものの特権ということでしょうか。》 大きければエライのか。釈然としない。今泉の語尾も揺れている。

●何が何でも生きる

△ユノハナガニ  ユノハナガニは、300℃以上の熱水を吹き出す、海底火山の近くに暮らしている。ところが熱い湯に触れると茹で蟹になってしまう。 深海の水は約2℃の冷水。噴き出した熱水はすぐ冷やされる。ユノハナガニは10℃〜20℃の付近の心地よい距離で暮らす。 そんな危なっかしいところで暮らすのは、海底火山の近くにいるチューブワームを食料としているからだそうだ。たくましい。

△オカモノアラガイ  やっかいな名前だ。どこに切れ目があるのだろう。どうやらオカのようだ。陸で暮らす巻き貝で、ふだんは腐った葉などを食べてひっそりと暮らしているのだが、 ロイコクロリディウムという吸虫に寄生されると様子が一変。体色がハデになり、ふだんは太陽の光を嫌うのに、 わざわざ明るいところに出て行って鳥に食べられてしまう。それというのもロイコクロリディウムは鳥の体内で卵を生むためだ。 知らないうちに洗脳されているのだ。地方から東京の大学に入り寂しい思いをしているところへ「バレーボールの会に入りませんか?」 「今度えらいかたの講演会があるんだけど行きません?」なんて近づいてくるカルトのようだ。おそろしやロイコ。

△クダクラゲ  こいつをテレビで見たときは感動した。感動なんてことばは滅多に使わないわたしがだ。全長40メートル。 ただしシロナガスクジラのような単体での長さではなく、「群体」といって小さなクラゲが延々とつながっているのだ。 《しかも「泳ぐグループ」「光るグループ」「食べるグループ」と役割ごとに形や能力も違います。/大きさくらべに、 合体した体は反則じゃないか、とも思いますが、そもそも私たちの体も細胞の集合体なので文句はいえません。》 最後の一節は生き物好きの子どもの心をさらに刺激するのではないか。

△シロイルカ  イルカが脱皮するとはおもわなかった。《シロイルカは、北極周辺の海でくらしているため、かたい氷にぶつかって、皮ふがすぐに傷だらけになります。 そこで冬が来る前に、古くなった皮ふをぬぎすて、新しい皮ふへと衣がえをするのです。》夏になってしわしわになった全身を川底の砂利にこすりつける。 脱皮に夢中になっていると浅瀬に取り残され、ホッキョクグマに食べられてしまうこともあるとか。

△ナナフシ  木の枝に擬態して動かないからどこにいるのかわからない。体長50センチのもいるという。ところが卵は数ミリしかない。 草の種に擬態しているようだ。親も親なら卵も卵。アラジンの魔法のランプから出てくる魔法使いのようなイラストが添えられている。

△タヌキ  《タヌキは気絶しやすい動物らしく、銃声などの大きな音がしただけで動けなくなってしまい、弾が命中したと思った猟師が近づくと、 バッと飛び起きてにげ出すのです。相手を一度ゆだんさせることで、危険からのがれてきたのでしょう。》 そんなことから「タヌキ寝入り」などと不当なそしりを受けるようになった。ところが現代では車の前に飛び出して気絶し、 そのままひかれてしまうことも少なくないらしい。環境に適応しないと絶滅するぞ。

△キサントパンスズメガ  マダガスカル島には、花の奥23センチのところに蜜をたくわえているランがある。それではどんな虫も蜜を吸えないではないかとおもうと、 30センチ以上の口を持ったキサントンパンスズメガが独占し、なおかつ花粉を運ぶ。お互いに離れられない仲なのだ。

△ウミガメ  砂浜を掘って産卵するウミガメは涙を流しながら卵を生むから、見ているほうは「おお、そんなにつらいのか、そんなに悲しいのか」と感情移入してしまうが、 じつはウミガメにとってはつらくも悲しくもない。いつも涙を流している。《理由は、塩分のとりすぎ。大量の海水を飲んでいるため、よけいな塩分をまとめて、 目の付け根から体の外にすてているのです。》おしっこ同然だと著者は結んでいる。

 そういえばツユクサが夏の朝、葉先から水滴を出して輝くさまはなんとも愛らしいものだが、 「ツユクサの葉の先端には「水口」という穴があって夜のあいだに余分な水を排出しており、それが朝露のように見えるのであって、 うそ泣きのようなものだ」とひどいことをいうのは『身近な雑草のゆかいな生き方』(稲垣栄洋著、三上修イラスト、草思社)。

△ダイオウグソクムシ  ダンゴムシの親分。深海に住んでいるし摂食活動もほとんどしない。5年以上何も食べずに生きた記録があるという。 無駄なものをバリバリ食ってブクブク太っているアメリカ人に聞かせてやりたい。もう少し視野を広げて人類そのものが学ぶべきかもしれない。

△ウマ  実況中継を見る趣味はないが、たまに重賞レースのニュースを見ると、サラブレッドたちはドドドドッとものすごいスピードで走っている。 だからウマは全速力で走るのが好きなのかと思ったら、そうでもなく、《実際はがんばりすぎると、心臓発作で死んでしまいます。》 モンゴルのナーダム競馬では30キロのゴール前で力尽きてしまうものもいるようだ。 《人間もほかの動物も、限界がくる前に力をゆるめてしまうものですが、ウマは全力をつくし、身をほろぼしてしまうのです。》 thorough bred(サラブレッド、thoroughは徹底的に、bredはbreed,交配させるの過去分詞。完全なウマ) ということは、力尽きるまで走るウマという意味ではなかろうか。人間はむごいことをするものだ。

△スローロリス  ノロマザルとも別称されるスローロリスは、甘い樹液や果実のほかに昆虫も食べる。のろまのくせになぜすばしこい昆虫を捕まえることができるのか。 《じつは昆虫の目は、速く動くものにはよく反応しますが、動きのおそいものは風景とほとんど見分けがつきません。》それで捕まえられる。

△アマツバメ  《ある調査で、ヨーロッパアマツバメが10か月間ずっと飛び続けていた、ということがわかりました。 つまり、食事も睡眠も飛びながらすませているのです。》食事や排泄ならともかく睡眠までとは。《どうするかというと、空高くまで舞い上がり、 落下しながら眠るのです。》1〜2秒間落ちたところで目を覚ますのだそうだ。いやな渡世だなあ。